その夜の私は、なぜだかどうしても眠れなかった。 子供だったから 昼間経験したことに興奮していたのか、 それとも眠ることに対する恐怖だったのか、理由はわからない。 枕を並べた弟がたてている寝息に焦りを感じながら、 何度も熱い寝返りを打っていた。
「眠れないよ…」 寝室に上がって来た母に小さい声で訴えると、 母は、 「眠れないの?」 といって私のふとんの足下においてあったミシンの前にさっさと座った。 そして、それ以上私の眠りに触れることなく、 母は自分の作業に没頭した。
カタタタタタタン タタタタタン
不規則に、けれど絶えることなく続くミシンの音。
寂しいような、ほっとするようなそのリズムを どれくらいのあいだ聞いていたのだろう。
私は魔法にかかったように いつのまにか眠りに落ちていた。