夜 ひとりでバスに乗る
すると街はみたことのない場所になる
バスは観客を乗せ
広い広い劇場の中を縫って走る
街では人々が日常を演じ続けてる
私が観てるなんて全然知らずに
バスは赤信号で停車する
道路脇の店のウィンドウには
まるで街灯のような光をたたえた水槽
毒々しい明かりの中で
狭い水槽の中を悠々と上下しながら
ほの白く光る半透明のクラゲたち
気がつくと
観客だったはずの私は
知らぬ間に舞台にあげられている
彼らこそ 毎晩この場所から
《夜》という劇場で繰り返される私たちの日常を
見つめ続けているに違いないのだ
ここから動かずに ずっとずっと くりかえし
朝になったら読むのに勇気がいる手紙を書いてしまうことや
夜空に知っている星座があると ほっとすることや
昔の恋人の指先を思い出すことや
死んでしまった肉親を思い出して声を出して泣いてしまうことや
根拠のない自信や絶望に取り憑かれることや
小さい頃に繰りかえしみた夢の内容を突然思い出すことや
手をつけていないことと残り時間を数えては
下腹が熱くなることや |