夏になると
ここには大勢の旅人がやってきます

そのなかでも
夕暮れ時の桟橋にふらりと現れるのは
きまってひとり旅の旅人です

ひとり　そして　またひとり

指南書でもあるかと思えるほどの正確さで
桟橋を目指してやってきて
夕焼けにほほを紅潮させて時をすごしていきます

まあ　それも　しかたありません
ここの夕焼けは格別ですから

彼ら旅人が必要としているのは
四六時中　自分の姿を映し出しつづける
ウィンドウのガラスや
張り巡らされた鏡や
他人の目から　解放され
自分自身の感覚とタイミングでもって
まわりのものとの距離を測り直せる場所なのでしょう

だから私は
自分自身を少しでも肯定できたときにだけ感じられる
あの身体の中心が痺れるような感覚を
一瞬でも感じてもらえるように
いつでもこの場所を
力の限り　美しい風景にして
旅人のやってくるのを待っているのです