2007.04 「桜、目黒川」

 

 

 僕の生まれた青物横丁には目黒川が流れている。東京湾に流れ出るほんの少し手前の、なんともそっけない都会の川だ。でもこの季節だけはいつもとは違う...。
 たぶんもう咲き始めている頃だ。
昨日の天気の悪さとはすっかり変わり、気持ち良く晴れている。風も心地よくまさしく散歩日和。今日の散歩はあそこをゴールとしよう! なんかお昼の 『ちい散歩』 みたいだが...。
 南品川から戸越に抜け、四間通りで大井町へ。カメラぶら下げ歩いているとジワっと汗ばんでくる。
 よく行く鰻屋でうな丼を食べよう。 この店は旨いけど、混んでいるとおばさんの機嫌が悪いので(笑)入る前に中を伺う...今は大丈夫そうだ。入るのに気を使う店...なんだかなぁ、と思う。
 そして仙台坂を下り、第一京浜を横切り旧東海道に入る。商店街をのぞきながら歩くと目黒川にぶつかる。
 目の前に広がるのは...桜だ。 いつもの何でもない川ではなくちょっと川も誇らしげ...? に見える。毎年思うし月並みだけど、四季がある日本ていいなぁ。寒い冬が終わり春の訪れにパッとこうして桜が咲く。なんだかとてもよい。
 横の荏原神社の木陰で休憩することにした。 あぁ 涼しい。かいた汗がすんなり収まる。 しばらくボーとしていると、一人の杖をついた老人が僕の前に腰をおろした。老人は何をするでもなくただじっと桜の花を見ている、僕と同じだ。毎年この桜を楽しみにしているのだろうな、老人の目にはこの桜はどんなふうに映っているのだろうか...? しばらくいろいろ考えてみたけど、なんかそんなことどうでもよく思えてやめた。
 時折、吹く風が桜の花をゆらす。
 僕らはしばらく一緒に桜を眺めた。どれくらい経っただろうか?音もなく目の前の景色が時間を無くした頃、彼は立ち上がりとぼとぼ歩きだした。
 何があったのか何もなかったのか...不思議な時間。

 さぁ、僕もバックを肩に掛け立ち上がる。帰りはあそこの蕎麦屋にでも寄ろうか...そんなことをたくらんで桜の下をゆっくり歩きだす。